『高校数学の技法』<おすすめの本 No.002>

今回紹介する本は,

高校数学の技法(桐村信雄・小林隆一共著, 培風館, 1957年初版)

です. 1957年に出版され, 1965年に改訂版が出ています. おすすめと言いつつも, 絶版入手困難な本です.

もう60年以上に販売されている本ですが, 改定前の初版のほうは, 国立国会図書館サーチでその目次を見ることができます.

以下が取り出してみた目次の一部です.

  • かくれている条件はないか?
  • 結論の見当はつかないか?
  • 逆むきに考えよ
  • 図を有効に使え
  • 計算の能率化をはかれ
  • 場合はつくされたか?
  • 道は1つとは限らない
  • 方程式と未知数のかず
  • 推論はequivalent(同値)に進められたか?
  • 条件を分析せよ
  • 問題はいかにして作られるか
  • andとor
  • 補助線はどう引くか
  • どの手でゆこうか
  • 必要か, 十分か
  • 同値(Equivalent)
  • 条件の表現
  • 未定係数と因数定理
  • 対称式と交代式
  • 軌跡発見の手段

この本を初めて手にとったときはとても衝撃的でした. いわゆる受験数学に近いものを感じたからです. こんな昔からあったとは思いませんでした. また, 内容も相当高度で, 当時のレベルの高さがわかります. また, 小手先の受験テクニックに重きを置いた丸暗記のような参考書ではありません.

例えば, 最近は予備校や受験数学の参考書でしか見なくなった対称式や交代式の記述などにもページを割いており, 対称式・交代式の定義から始まり, その性質についても丁寧に書かれています. 例えば,

問題

次の式を因数分解せよ.

$(a+b+c)(ab+bc+ca)-abc$

という問題では,

$\bm{x}$, $\bm{y}$, $\bm{z}$ についての対称式は $\bm{(x+y)(y+z)(z+x)}$ を因数に持つ

という定理を証明してから, 問題を解いています. ただ, いきなり

$x$, $y$, $z$ についての対称式は $(x+y)(y+z)(z+x)$ を因数に持つ

からと解答を書いても高校の教科書では普通は習いませんので, テストや入試ではバツになる可能性かあります. その辺も考慮した解答の書き方になっています. 具体的には,

$a=-b$ とおくと $(\text{与式})=0$. よって, 与式は $a+b$ で割り切れる. 同様に考えると $b+c$, $c+a$ でも割り切れることがわかるので…

というようにうまく解答を仕上げています.

また, 問題はいかにして作られるかという章では, 出題者から見た話やその意図などを説明しています. 例えば, 1957年の東京大学(文科)の問題

問題

不等式

$\left( x^2-y^2\right)\log_2\left\{\left(9-x^2-y^2\right)-3\right\}>0$

を満足する x, y を座標とする点P(x,y) の存在する範囲を図示せよ.

という定番の問題では,

「式の一部を複雑な式に置き換える」という問題を作る側の立場に立って

解説を行っています. 予備校の受験テクニックのようで読んでいてとても面白いです.

作者は桐村信雄先生と都立西高等学校教諭の小林隆一先生です. 桐村先生は, 微分積分学演習

を書いた先生です. 小林先生は実況中継シリーズで有名な先生です.

「高校数学への技法」が出版された当時,

高校の教科書では, 集合の考えや論証が取り上げられていなかった

そうです. この本では発行当時から強く強調していたことで, その後教科書改定の中で, 集合の考え方や論証が取り上げられました. (これは私が調べたことではなく, この本のまえがきに書いてあることを基にして書いています.)

旧版と改訂版の違いは,

  • 順番が入れ替えられた
  • 例題の追加
  • 本のサイズがA6からA5に変更
  • 幾何の部分がカットされた

などが挙げられます. その結果, 例題や問題数は2倍近くになりましたが, さらに読みやすく洗礼された印象を持ちます.

何はともあれこんな素敵な本を読めた当時の学生はうらやましい限りです. 今はないと言いたいわけではありません. 今もたくさんあります.

本来であれば, 本の内容なども載せたいくらいですが, 著作権の関係上それはできません. Googleなどで検索すると, オークションサイトの写真などを見ることができ, 本の雰囲気がわかるかと思います.

古本で改定前のものが出回ることは珍しくないですが, 改定後のものが出回ることは稀です. どこかで見たのであれば購入をおすすめします.

ただ, オークションサイトは高いので, 地元の古本屋さんなどを探して見てあったらラッキーといった感じです. 私自身も1冊は地元の古本屋で見つけました.

少し前には神保町にある明倫館(理工系の古本屋としての知名度はピカイチです.)

で初版のものが売られているのを見たことがあります.改訂版はヤフオクなどのネットオークションだと, 場合によっては数万円の値がついているものもあります.

この本も復刻されたらなとよく思います. 培風館に期待.

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